鉄の小話(1)

【鉄の国にっぽん】
鉄はいまも昔も私たちにとって身近で貴重な様々は物の材料です。
日本には弥生時代に鉄器が伝来し、その後製鉄そのものが行われるようになります。
製鉄に取り組む上で、この日本という国はなかなかその環境に恵まれてました。
鉄の原料となる砂鉄が豊富に存在し、製錬(鉱石から金属を取り出す工程)に使われる木炭も
再生能力にきわめて優れた森林が支えていました。
その生産量と加工技術は当時の諸外国と比べても抜きんでたものだったかと思われます。
高炉

その後、農機具が鉄器化されることで農地開拓も飛躍的に向上します。
人々の生活(食糧事情)を安定させたという意味でその恩恵は計り知れません。
その一方で、武具の発達にも寄与したとも言えるわけで
(むしろ武具が鉄の必要性を一層高めた)
例えば包丁などはその恩恵の一面でしょう。
道具は何事によらず、利用する側の意図によってその性格が表裏一体と化す・・・
などと他愛のないことを想像してしまいます。

話もどって。
また、製鉄の発達はその国の権力者の権力基盤の一つとしても必須事項だったと言えます。
例えば中世の日本では、鉄器農具は「国(政府)」の持ち物だったそうです。
農民は毎日それを借りて農作業をし、作業が終わるとまたそれを返していた。とも言います。
当然のこととして、その鉄器農具で耕された(生産性の高い優良な)田畑は政府の所有であり、
鉄器農具を使えない生産性の低い田畑は農民私有だった・・そうです。

たたら製鉄という言葉を聞いたことがあるかと思います。
これは直接製鉄法と呼ばれる製法で、
砂鉄や鉄鉱石を低温で加熱、半融化し鉄塊を得・・・ここまでを製錬、つまり製鉄。
さらに精錬・鍛造(トンカンコンと叩く)し不純物を取り除いて(炭素を追い出して)強度を得る
・・・ここまでを精錬、つまり製鋼。
というもの。
一方の間接製鉄法は、まさに現代行われている製法で、
鉄鉱石を高温で加熱、溶融し鉄を得(銑鉄)・・・ここまでを製錬、つまり製鉄。
さらに高温加熱して銑鉄内の炭素を燃やし強度を得る・・・ここまでを精錬、つまり製鋼。
というもの。少々乱暴に括るなら
直接製鉄=人力だより
間接製鉄=設備(火力)だより
となるでしょうか。

何れにせよ鉄というのは、自然に存在する金銀銅のように「自然な鉄」としては存在しません。
あくまで酸化鉄を高温状態において炭素で還元させることでしか私たちに役立つ鉄にはならない。
話は逸れますが、木はそれ自体が家具や建材などの優れた材料であるばかりではなく、
熱を得るための貴重なエネルギー源でもあることからその身近さと貴重さにはただただ感謝。
感謝。感謝。です。
(などと鉄のことを考えていたら改めて木のありがたみを痛感しました)
鉄には「炭」(木炭であれ石炭であれ炭素)が必須です。
繰り返しとなりますがその高温を作る熱源として、酸化鉄の還元材として、
そして鉄が鉄であるための添加物として。
その意味で鉄と木は、家具などの道具として組み合わせれるそれ以前に、
鉄が鉄として作られる段階で、既にこの二つは切っても切れない近しい間柄にあった。
とも言えるのかも知れません。

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